2011-01-01から1年間の記事一覧

その106 やがてくる未来に出会いたい本。

いまや韓国の国民的歌手と断言して異論を唱えるひとは少ないであろう、IU(あいゆ)の第2集『Last Fantasy』が発売された。そこに収録されている活動曲「You&I」の歌詞について、今日はどうしても書いておきたい。 あなたがいる未来で もしわたしが彷徨って…

その105 如何なる星の下に。

文句を言いやすい相手、というのは存在する。 会社では取引先に無理を言われ、上司に無茶なノルマを課され、家に帰れば近所の迷惑に巻き込まれ、パートナーに愚痴られ……それでも言い返せない、優しいあるいは勇気のない人間のはけ口は、多くの場合「大きなも…

その104 心に従えない人にすすめる本。

スティーブ・ジョブズが死んで、多くの人が追悼にスタンフォード大学で彼が行った講演をブログで、ツイッターで紹介していた。その中でもひときわ多くの人が引用していたのが、最後の一節だろうと思う。 自分はいつか死ぬという意識があれば、なにかを失うと…

その103 好きな本のことを忘れてしまった日に。

ほんとうはそのことについて何ひとつ知らないのに、単語だけ知っていたために会話が成立することがある。最近○○っていう小説読んだんですよ、ああ、あの××で直木賞とったあの人の最新作ね。ところで…というふうに。会話としては特にめずらしいものではないと…

その102 人生のコンパス。

ノアの羅針盤作者: アンタイラー,中野恵津子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2011/08/12メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 22回この商品を含むブログ (17件) を見る もしあなたが働き続けて、60歳でその仕事を失ったら、どうするだろうか。活発な…

その101 破滅しないためのワクチン。

破滅する人生が美しいというのは安っぽい考えだと思う。私はパンクロックもジャズも好きだ。でもミュージシャンの破滅的な生き方に憧れるのはまちがっている気がする。酒、薬物、暴力。そういったものと縁を切って、横綱白鵬みたいに、夜寝るのが一番好きだ…

その100 原点に返る。

夏目漱石というと活動的な『坊っちゃん』や飄々とした『吾輩は猫である』から、親しみやすい印象を抱くだろう。実際、小説家として成功してからの漱石のもとには多くの弟子が集まった。だが若いころの漱石は、頭脳があまりに明晰なために気難しいところがあ…

その99 面白く生き残りたい人にすすめる一冊。

ビジネス街にある書店で、ビジネス書を担当する人におすすめの一冊は、と聞いて教えてもらったのがこの本。べつにビジネス書を薦めてくださいと言ったわけではない。その人に面白い小説を教えてもらうつもりで質問したら、返ってきた答えはこの本だった。ス…

その98 犯罪について語ること

犯罪作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2011/06/11メディア: 単行本購入: 10人 クリック: 112回この商品を含むブログ (106件) を見る ドイツ人の弁護士が11件の犯罪について小説に仕立てた短編集で…

その97 悲しみよ、さようなら。

あれはいつ聞いた話だったか、ネット書店で働いている人が「ビジネス書は日曜日の午後に売れるんですよ」と言っていた。もう何かをはじめるには手遅れの時間になってから本に救いを求める気持というのはよくわかる。マルクス・アウレーリウスの『自省録』を…

その96 有名人の死。 

有名人の死というものを、どう扱っていいのかわからない。 家族や親友のように身近な人のことなら、その死で自分の負った痛みを綴ればいい。ちょっとでも面識があるなら、その出会いを担保に何かを語ることができるだろう。 だが、テレビ新聞を通して、せい…

その95 目を背けてきたことに向き合うための本。

読んで具合の悪くなる本というのはあまり人に薦めないほうがいいのはわかっているのだが、それでも薦めてみたい本がある。ルポライターの鎌田慧が書いた『原発列島を行く』という新書。鎌田さんが日本各地にある原発地帯の町や村を回って、地域住民と電力会…

その94 戦うこと。

音もなく少女は (文春文庫)作者: ボストンテラン,Boston Teran,田口俊樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2010/08/04メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 49回この商品を含むブログ (59件) を見る ニューヨークの貧しい家庭に生まれた女の子は聾だった。父の…

その93 好きな本に苦しめられた時に読む本。

本の販売に携わる仕事をしていると、好きな本とつきあうのが難しい。どうしてかと言うと、好きな本が売れなかったら傷つくからだ。 最近、自分のいちばん好きな本ってどんな本だったっけ、と思って堀江敏幸氏が書いた作家ジョルジュ・ペロスについてのエッセ…

その92 新宿がフクシマになる日。

新卒採用の面接官をしていたら、学生から質問された。 「大震災の影響で、小説は変わると思いますか?」 いい質問ではあるけれど、採用試験という限られた時間で、しかも上司の目がある公的な場で答えるのは難しい。「新聞やテレビが騒ぐほど、物語は変わる…

その91 テキストブック。

頭の中で何度も再生する風景、というのが誰にでもあるんじゃないかと思う。私の場合、中学3年生のとき、教室の一番後ろの窓際の席に座って、顔を左に向けて、昼休みの終わりに見ていた中庭の風景というのがそのひとつに当たる。空が曇っていて、視線を落と…

その90 あの日のこと。

目覚まし時計の音で目が覚める。時間をかけ、念入りにお化粧をして、お気に入りの服を着て、高いヒールを履く。会社に行きたくない憂鬱な朝の儀式。「誰かに見てもらわなくちゃ勿体ない、だから出勤しよう」と思うことで無理矢理出社する。3月中旬からの3ヵ…

その89 探偵の仕事。

仕事は人を悩ませるものだ。 職業は人生に意味を与える。だから手がけた仕事が順調なら、天下取ったように思い込むし、うまくいかないと、存在まで否定されたような気がする。 うまくいかなくて落ち込むのは、うまくいった状態を理想としているからだ。だが…

その88 ヒップホップは好きですか。

仕事でつきあいのある皆さんが薦めていたので遅ればせながら『切りとれ、あの祈る手を』を読んだ。前から関心はあったのだが、思想関係の本は読解に時間がかかるうえ、読みたい死人の名著だけでもちゃんと数えればたぶん10生分くらい残っているので脳に慢性…

その87 本を読むことは正しいのか?

二人の高校教師がはじめた「朝の読書」という運動が広がりを見せている。その名の通り、学校で毎朝決まった時間に本を読ませる試みで、慢性的な売上低迷に悩む出版業界として得るものはあっても失うものは何もないから、全面的に後押ししている。 素朴な疑問…

その86 寝ることが恐くなくなる本。

私は向上心を抱くと寝ることが恐くなる。人との競争に勝つために寝る間を削って何かしなくてはと思って、夜更かしを正当化するようになる。私はとても寝ることが好きで、また寝ることもずば抜けて得意な方だと思うのだが、大事な何かを犠牲にしなければ何か…

その85 さんま言うところの「ほんまでっか」な本。

人にものを薦めるのはむずかしい。 自分がいいものだと思って、相手にもいいものだと思ってもらえるのなら、話は簡単だ。自信を持って薦めればいい。また自分がよくないものだと思って、相手にもよくないものだと思われそうなら、そんなもの薦めてはいけない…

その84 雑音の聞き方を学ぶ本。

アレックス・ロスの『20世紀を語る音楽』という本のなかに、作曲家マーラーの言葉が紹介されている。「コンサートホールや歌劇場の観客席にいる何千人もの人々に聞いてほしいと思うのなら、ただたくさんノイズを書くしかない」。 この言葉を目にしたとき、た…

その83 勝手に新人研修。

新入社員は予定通りやってきたのだが、今年は張り合いがない。 どの会社も同じと思うけど、研修が行われる。部署ごとに、仕事の内容をレクチャーしたり、職場に椅子を置いて雑用を体験してもらったりする。 入社した翌年から5年連続で営業の研修を担当した…

その82 献身について。

来週で1歳2ヶ月になる息子が最初に覚えた言葉は「あんぱんまん」だった。まだうまく発声が出来ない10ヶ月の頃、バスの車内にあったアンパンマンショーの広告を無言で指さしているのを見て気づいた。 息子とアンパンマンとの出会いは、音の出る絵本『うんて…

その81 戸塚ヨットスクールが、まだ続いている。

あの戸塚ヨットスクールが、まだ続いている。 30年前の事件をリアルタイムで知るわけではないが、それでも「戸塚校長=体罰=暴力=悪」という図式は刻み込まれている。戸塚校長はじめ関係者は逮捕され、とっくにスクールは潰れたと思っていた。 東海テレビ…

その80 女神に惚れてもらいたい男子必読の書。

自由の女神と勝利の女神、どちらに惚れてもらいたいかで男の生き方は変わってくると思う。ふつうはどちらかに惚れてもらえばまあ満足で、自分のやりたいことをやって富も名誉も得ようとする男なんて、考えが浅いか自分に相当厳しいかのどちらかだ。しかし世…

その79 もう選挙なんてやめてしまえばいい。

もう選挙なんてやめてしまえばいいのにと思った。 ありがたいことに、日本ではすべての成人に選挙権が与えられる。江戸時代までは庶民に選挙という概念すらなかったのだし、近代に入っても納税額や性別によって投票が制限されていた。先人の努力に加えて、敗…

その78 寒くて哀しい話。

高倉健は気温を下げるほどシブ味が出ておいしくいただける、と昔リリー・フランキーがコラムに書いていた。そんなことを思い出したのは、昨日までずっと、話題になっている文庫『海炭市叙景』を読んでいたからで、その解説にこういう文章があったのだ。「『…

その77 旧正月お祝い申し上げます。

まもなく旧正月だ。 年末年始はにぎやかで独り身には寂しい日本を逃げ出すように雲南をふらついていたけど、そんな中国の正月である春節の騒がしさは日本の比ではないという。なにしろ700億近くかけて建てた新築ビルに打ち上げ花火をぶち込んで、華々しく…