その93 好きな本に苦しめられた時に読む本。
本の販売に携わる仕事をしていると、好きな本とつきあうのが難しい。どうしてかと言うと、好きな本が売れなかったら傷つくからだ。
最近、自分のいちばん好きな本ってどんな本だったっけ、と思って堀江敏幸氏が書いた作家ジョルジュ・ペロスについてのエッセイ『魔法の石版』を読み返した。そして、前に読み飛ばしていた一節に目が止まった。
「愛するとは、誰かに自分たちを苦しめる——義務でなければ——権利を与えることである」(ペロス『パピエ・コレ』)
泣いている子どもを抱っこしている時とか、深夜にK-popの動画を見過ぎた翌日の午後死にそうに眠いときとか、よくこの言葉を思い出す。
英語の表現で、誰かに入れあげることを表現する「give a soft spot for〜」という熟語があるけど、ペロスの言葉と近い感覚だと思う。
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きのう、福岡でブックスキューブリックという書店を経営している大井さんの講演を聞きにいった。吉田修一の小説が原作の映画「悪人」でお店がロケに使われたという話を聞いて、気になったのでDVDを借りて観た。
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今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失うものがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ。
自分の仕事に、好き=苦しい、という感覚をもち続けることを忘れそうになった時のために、この2冊のことを覚えておきたい。
もうひとつだけ、同じような感覚を歌った言葉を思い出した。ビートルズ「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」の始めのほうでジョンが歌うLiving is easy with eyes closedという部分。やっぱり今を簡単に生きてはいけないんだと最近よく思う。