その143 青春と別れるための一冊。

このブログも断続的ながら4年くらい続けてきて、自分としては読んだ本のことをもう一度理解するためのいい機会になったり、あとで人に話すときの記憶のよすがになっていたりして、意味のある活動だった。けれどもいっぽうで、ブログってなんとなく「男らしく…

その142 部屋に植物を置かない人にすすめる一冊。

今年の春に同じ町内で引っ越しをして、バオバブをひとつ買った。どことなくドラクエに出てくるマンドラゴラを思い出させるずんぐりむっくりした太い幹に似合わない小こい枝が幾つもついている。 鉢植えは買っても、切り花は買ったことがない。この差はなんだ…

その141 猛暑に心頭滅却したい人にすすめる本。

夏が暑い場合、夏を殺してしまいたい人と、夏を涼しくする人と、夏が終わるまで待つ人がいると思う。私は根が姑息なのでこういう場合も真ん中の秀吉的態度で夏に立ち向かう。よく、エレベーターの中などで隣にいる人との会話に詰まるとさりげない調子でお暑…

その140 自分の時間をあざやかにする本。

本の営業をしていると、自分が担当している店が閉店するというのは悲しい。とりわけ私にとってつらいのは、同じ棚をもう見ることはないのだ、と思うときである。その棚には、店の人のおすすめと、人気であるからという理由でおいてある本が示すお客さんの好…

その139 かっこ悪くなりたいと思ったときに読む本。

このところ痛切に思うのは、自分のマイナス要素の正しい表現方法は自分で学ぶしかないということだ。勉強ができる、勝負に勝てる、お金がもうかる、求愛される、世界中で必要とされる、そんな方法を教えてあげましょうとささやきかける人たちはいつの世にも…

その138 馬鹿フェチに捧ぐ一冊。

たいした問題じゃないが―イギリス・コラム傑作選 (岩波文庫)作者: 行方昭夫出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/04/16メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 72回この商品を含むブログ (26件) を見る この本を翻訳している行方昭夫(なめかたあきお)さんの…

その137 もうエッセイしか読みたくないあなたへ。

私の祖父はせっかちで、車を運転していきつけの中華料理屋「一品香」に行く際には必ず車中でその日の全メニュー進行を考えさせられた。店に着くまでに注文する料理を決めておかねば気がすまないらしいのだ。その遺伝子を四分の一程度引き継いでいる私もそこ…

その136 日本を愛したい人にすすめる本。

この頃、自分のなかで日本愛がちょろちょろと岩清水のように湧出しはじめた。それはまるで親の意思で無理矢理結婚させられた相手と暮らしているうちにこの人いいところあるかもと思い始めた全近代的夫婦の心境みたいなものかもれしない。しかし声を大に、と…

その135 誰よりも自分に薦めたい一冊。

小学生の頃は新聞記者になるのが夢で、大学時代には新聞会に所属しつつ新聞社でアルバイトをし、就職したら新聞印刷工場をめぐって輪転機が回るのをずっと見ていた私は、いまほとんど新聞を読まなくなった。家に届いた新聞を開くのは、週末に靴磨きをすると…

その134 憧れはBLのなかに。

三十を過ぎてこんなことを言うのも何だが、胸が欲しい。それというのも仕事でBLの棚ばっかり見ているせいだ。BL。もはやおしゃれな響きさえ感じるが今私はBLに影響を受け始めている。BLに出てくる男みたいになりたいと思うのだ。BLといえば聞こえはいいがつ…

その133 フランスのちびまる子ちゃん。

高校生のころの愛読書はさくらももこの『ちびまる子ちゃん』だった。妹の本棚から抜き出して読むのがとても好きだった。社会人になって出張先の静岡を訪ねたとき、清水の商店街で、まる子の好物「甘なっとう」を買った。それを手に提げて、大部分のシャッタ…

その132 おめでたい日に違和感を感じたときに読む本。

何十年も生きてきて、自分の幸せを疑わない人というのはたぶんいないと思う。それなりに幸せな人も、もっと幸せな人を見て嫉妬したり、いつか突然に訪れる自分の幸せの崩壊をぼんやりと予感して不安になったりするのではないかと思う。幸せはいつもさしあた…

その131 絶対に読んでください、と言われた本。

誰に薦められなくても読む本と、誰かに薦められなければけっして読まない本がある。単純にその本のことを知らなかったからというより、絶対に読んでといわれなかったら読まないような難しい本や、まじめな本がある。なるべくなら本は誰にも薦められずに読み…

その130 残念という倫理を学ぶ。

いっとき海外ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」にはまってずっと見ていた。どこにはまったのかというと、四人の女主人公キャリー、ミランダ、シャーロット、サマンサが休日の朝に集まってごはんを食べながら強烈な下ネタを交えて自らの性愛体験を語る…

その129 教養としてのゾンビ。

ゲーム好きの間で、異様に難易度が高かったり単調だったりするゲームのことを、いくぶんかの愛着をこめて「クソゲー」と呼ぶことがあるが、本の世界にもひっそりと、そういう「おバカ本」の類は息づいている。先日、本の業界紙の宣伝をぼんやり見ていたら気…

その128 帰りの電車で読むならこの本。

よく演劇なんかを見に行くと「この舞台は役者とお客さまが一緒になってつくりあげるものです」などという口上を聞くことがあるが、通勤電車に乗っているとき、確かにそれはあるかもしれないと思う。人が場をつくる、というのは本当だと感じるのだ。 乗ってい…

その127 計算ずくの人生に飽きたら。

このところ、ブログの更新が滞っていた。ただ面白かった、ではすまされない本に出会わなかったからでもあるし、ブログを書くよりも大切なことがあるように感じたからでもある。早出して仕事をしたり、睡眠をとったり、家の掃除をしたり、ぼうっとしたりする…

その126 ひどい自分と向き合った日に読む本。

世の中にはひどい人というのが沢山いて、というか自分のなかにひどい部分のない人はあまりいない。自分のひどさをどのように表現するか、それが個性なのかなと思う。ストレートにひどい部分を表現して他人に嫌われながら生きるというのも一つの方法だし、な…

その125 楽しい小説をお探しの方に。

ほんらい、小説というのは楽しむためにあるもので、だとすれば「楽しい小説」というのは、馬から落馬するとか、頭痛が痛いといった言い方と同じものかもしれない。私は、こうした重複表現のことを考えるといつも、かつての上司が『セツナイコイ』という漫画…

その124 自分の使い方がわからなくなった人へ。

家電製品を買っても説明書を読まない人がいるように、人間に生まれても生物学の本なんて読まなくたって生きていける。でもたまに読むと、ものすごい発見があって、世界的にはとっくに発見されていたことを自分が全然知らずに生活していたことに愕然としたり…

その123 時には昔の話を。

先週の土曜日、上林暁の『故郷の本箱』という随筆集を鬼子母神下のガレージで買った。吉祥寺でひとり出版社をしている島田潤一郎さんが興した夏葉社という版元で通算6冊目にあたる新刊本だ。島田さんと、ジュンク堂書店仙台ロフト店に勤務する佐藤純子さんが…

その122 図書館にて。

長崎県諫早市立図書館を訪ねると、奥には「郷土の作家」として野呂邦暢のコーナーがあった。僕が手に取った『愛についてのデッサン 佐古啓介の旅』(みすず書房)には佐藤正午の解説が収められていて、少し意外に感じた。佐藤さんは同じ長崎の佐世保出身だか…

その121 脳内脂肪をスパークさせる本。

私の心の中には演劇部員がひとり住んでいる。日々を粛々と生きていると、ときどき私の両肩をつかんで揺さぶり「きみも演劇部に入らないか?」と勧誘してくるありがたくも厄介な相手だ。何がいいたいのかと言うと、ときどき猛烈な表現欲求がわきあがってきて…

その120 移動することなく国外逃亡するという体験。

営業先の書店で、面白い本をみつけた。坂口恭平という人が書いた『独立国家のつくりかた』という新書だ。どことなく不穏なタイトルなのに、帯に大きく入っている写真は日本家屋の隣にあるツリーハウス。その窓際で青年がひとり、外を見ている。直感的に、こ…

その119 放心の必要。

発売されるのを1ヶ月以上も待った本は久しぶりだった。出版情報紙「パブリッシャーズ・レビュー」の3月号をぼうっと眺めていたら、デザイナーの深澤直人さんが『建築を考える』という本の紹介をしていた。どの文章が、というのではないけれど、紹介文を読ん…

その118 読む気がおきない本好きに捧ぐ。

いつ頃からか、本を読むのが難しくなった。本を売る仕事をしていて、本を読むことの意義は自覚しているつもりだったし、面白い本をすすめてくれる知り合いも大勢いて、本について語り合える友達もいるのに、本を読むのが難しくなってしまった。いままでは、…

その117 猛獣でチルアウト。

出張に行くと、書店さんにおすすめの本を教えてもらって、帰りの新幹線で読むことが多い。最近ハマっている『しろくまカフェ』もそんなふうにして出会った。アニメにもなっているので話題のコミックなのだが、たぶん自分で見つけて買うことはないので、こう…

その116 眠れないほど疲れたとき、手を伸ばす

まだ18時だというのにホテルへ戻った。 その日はとびきり美味しい食事が出来るお店へ行くつもりで スケジュールを組んでいたのだけれど 朝から予定を詰め込みすぎたため日が落ちてくるころには 疲れ切っていたのだった。 1日のメインイベントである食事は万…

その115 私たちは孤独から逃れられない

きみは誤解している (小学館文庫)作者: 佐藤正午出版社/メーカー: 小学館発売日: 2012/03/06メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 夫婦で小さな寿司屋をやっている「おれ」の趣味は競輪だ。のれんを分けてもらった「おれ」の社長は「ギャンブルは人生を…

その114 勝負という名の演技について考える。

数多くの新聞で取り上げられ、ベストセラーとなった柔道家・木村政彦の伝記『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』を読んだ。2段組み、本編だけで689ページもある大著を読み終えたときは達成感ばかりが先立ってただ面白かった…としか思わなかったのだが…