2012-01-01から1年間の記事一覧

その128 帰りの電車で読むならこの本。

よく演劇なんかを見に行くと「この舞台は役者とお客さまが一緒になってつくりあげるものです」などという口上を聞くことがあるが、通勤電車に乗っているとき、確かにそれはあるかもしれないと思う。人が場をつくる、というのは本当だと感じるのだ。 乗ってい…

その127 計算ずくの人生に飽きたら。

このところ、ブログの更新が滞っていた。ただ面白かった、ではすまされない本に出会わなかったからでもあるし、ブログを書くよりも大切なことがあるように感じたからでもある。早出して仕事をしたり、睡眠をとったり、家の掃除をしたり、ぼうっとしたりする…

その126 ひどい自分と向き合った日に読む本。

世の中にはひどい人というのが沢山いて、というか自分のなかにひどい部分のない人はあまりいない。自分のひどさをどのように表現するか、それが個性なのかなと思う。ストレートにひどい部分を表現して他人に嫌われながら生きるというのも一つの方法だし、な…

その125 楽しい小説をお探しの方に。

ほんらい、小説というのは楽しむためにあるもので、だとすれば「楽しい小説」というのは、馬から落馬するとか、頭痛が痛いといった言い方と同じものかもしれない。私は、こうした重複表現のことを考えるといつも、かつての上司が『セツナイコイ』という漫画…

その124 自分の使い方がわからなくなった人へ。

家電製品を買っても説明書を読まない人がいるように、人間に生まれても生物学の本なんて読まなくたって生きていける。でもたまに読むと、ものすごい発見があって、世界的にはとっくに発見されていたことを自分が全然知らずに生活していたことに愕然としたり…

その123 時には昔の話を。

先週の土曜日、上林暁の『故郷の本箱』という随筆集を鬼子母神下のガレージで買った。吉祥寺でひとり出版社をしている島田潤一郎さんが興した夏葉社という版元で通算6冊目にあたる新刊本だ。島田さんと、ジュンク堂書店仙台ロフト店に勤務する佐藤純子さんが…

その122 図書館にて。

長崎県諫早市立図書館を訪ねると、奥には「郷土の作家」として野呂邦暢のコーナーがあった。僕が手に取った『愛についてのデッサン 佐古啓介の旅』(みすず書房)には佐藤正午の解説が収められていて、少し意外に感じた。佐藤さんは同じ長崎の佐世保出身だか…

その121 脳内脂肪をスパークさせる本。

私の心の中には演劇部員がひとり住んでいる。日々を粛々と生きていると、ときどき私の両肩をつかんで揺さぶり「きみも演劇部に入らないか?」と勧誘してくるありがたくも厄介な相手だ。何がいいたいのかと言うと、ときどき猛烈な表現欲求がわきあがってきて…

その120 移動することなく国外逃亡するという体験。

営業先の書店で、面白い本をみつけた。坂口恭平という人が書いた『独立国家のつくりかた』という新書だ。どことなく不穏なタイトルなのに、帯に大きく入っている写真は日本家屋の隣にあるツリーハウス。その窓際で青年がひとり、外を見ている。直感的に、こ…

その119 放心の必要。

発売されるのを1ヶ月以上も待った本は久しぶりだった。出版情報紙「パブリッシャーズ・レビュー」の3月号をぼうっと眺めていたら、デザイナーの深澤直人さんが『建築を考える』という本の紹介をしていた。どの文章が、というのではないけれど、紹介文を読ん…

その118 読む気がおきない本好きに捧ぐ。

いつ頃からか、本を読むのが難しくなった。本を売る仕事をしていて、本を読むことの意義は自覚しているつもりだったし、面白い本をすすめてくれる知り合いも大勢いて、本について語り合える友達もいるのに、本を読むのが難しくなってしまった。いままでは、…

その117 猛獣でチルアウト。

出張に行くと、書店さんにおすすめの本を教えてもらって、帰りの新幹線で読むことが多い。最近ハマっている『しろくまカフェ』もそんなふうにして出会った。アニメにもなっているので話題のコミックなのだが、たぶん自分で見つけて買うことはないので、こう…

その116 眠れないほど疲れたとき、手を伸ばす

まだ18時だというのにホテルへ戻った。 その日はとびきり美味しい食事が出来るお店へ行くつもりで スケジュールを組んでいたのだけれど 朝から予定を詰め込みすぎたため日が落ちてくるころには 疲れ切っていたのだった。 1日のメインイベントである食事は万…

その115 私たちは孤独から逃れられない

きみは誤解している (小学館文庫)作者: 佐藤正午出版社/メーカー: 小学館発売日: 2012/03/06メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 夫婦で小さな寿司屋をやっている「おれ」の趣味は競輪だ。のれんを分けてもらった「おれ」の社長は「ギャンブルは人生を…

その114 勝負という名の演技について考える。

数多くの新聞で取り上げられ、ベストセラーとなった柔道家・木村政彦の伝記『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』を読んだ。2段組み、本編だけで689ページもある大著を読み終えたときは達成感ばかりが先立ってただ面白かった…としか思わなかったのだが…

その113 敗れさる快感。

小説には良し悪しとは別に、好き嫌いがある。 本屋さんに行けば、熱心な書店員さんは、たくさんのPOPをつけている。本を読むには時間もお金もかかるのに、自腹を切ってお客さんのために尽くそうという姿勢は、本当に頭が下がった。 それで推薦の言葉を興…

その112 ロマンティックな日本の小説。

直木賞を受賞した葉室麟の『蜩ノ記』を読んで、さあ次にどの作品を読もうかと思ったとき頭に浮かんだのは、携帯電話でいつか見た本の紹介ブログにあった『秋月記』の引用文だった。 「山は山であることに迷わぬ。雲は雲であることを疑わぬ。ひとだけが、おの…

その111 金で買って何が悪い……のか?

なぜ金で票を買ってはいけないのだろうか。 もちろん中学の教科書に載っているような反論は簡単にできるだろう。民主主義は市民一人ひとりの良心的な判断によって成り立っている。選挙における買収行為はその判断を歪めてしまう——でも、ちかごろ話題になった…

その110 復活の呪文を唱える。

父親から、神様はいると思うかと聞かれたことがある。中学生のころだったか。今にして思えば、そんなこと聞くなんて何か悩んでるんじゃないの? といいたいところだが、その時は何かいま自分はとても大事な問題を出されているんじゃないかという気がして、真…

その109 本当の私に出会わないために。

会社に入りたての頃、先輩にキャバクラに誘われたことがある。私はそうですね近いうちに、と言いつつ、でもどうして薄暗い空間でジンロを舐めながら女子と小一時間弾まないおそれのあるお喋りをすることに5000円も払うことを許せるのか私には全然理解できな…

その108 新年の目標。

暇なときにていねいな人づき合いや仕事ができるのは当たり前で、忙しくなったときにこそ、その人の真価が試されるってもんよ。大人なんだからあわてず騒がず、悠々やりたいもんだねえ。とつねづね言っていた同じ口が「すみません、今テンパっていまして……」…

その107 メメント・モリとお正月。

毎年お正月になると、ああ、明けちゃったよと思う。ことに3が日がつらい。こちらは52週間分の新しい重荷が肩にのっけられたことで憂鬱な気分なのに、テレビからは洪水のようにおめでたモード全開のお笑い番組が流れてくる。笑えば笑うほど、なんとなく暗いも…