その108 新年の目標。

 なときにていねいな人づき合いや仕事ができるのは当たり前で、忙しくなったときにこそ、その人の真価が試されるってもんよ。大人なんだからあわてず騒がず、悠々やりたいもんだねえ。とつねづね言っていた同じ口が「すみません、今テンパっていまして……」と詫びを唱えつづけること三か月におよんだ。やらねばならないことを年内押し込んで、一息ついてみれば、省みて自らの言行不一致に赤くなったり、各方面に積み重ねた不義理の山の高さに青くなったり。
 情けなさとみっともなさでとてもこの国にはいられまいと、正月、中国はシルクロードの入り口あたりまで逃げて、はるか西域、果てはインドかペルシャかローマかと望んでみたものの、恥ずかしながら戻ってまいりました。

 古典中の古典を取り上げて、今さら紹介もないとは思う。ただ、ミステリーという世界がさまざまな書き手によって広げられて、豊かになったのは本当にありがたいことだけど、いっぽうでこのジャンルの魅力って何だっけと考えたときに、やはりおおもとに来るのは謎解きの楽しさ。そして謎解きの何が楽しいかと考えてみたら、偶然や神仏に頼るのではなく、物事の観察(ふだんとの違いに気づくこと)と論理の組立(こうすればああなると、こうすればああならないの繰り返し)によって、世の中の見方を変えてしまうことだろう。
 つまり人間の理性への信頼と、世界の多面性を受け入れることが、推理という行いの原点にある、とホームズは改めて教えてくれた。それは、読み手の日常もきっと幸せにしてくれるし、ビジネスにだって役立つ……気がする。
 装丁が洒落ていることと、文章が読みやすいこと、必要十分な注釈がつけられていることもあって、光文社文庫の新訳全集は旅のお供にふさわしい。
 今年は、ミステリーやエンターテインメントの読み進めに力を入れます。(藪)