その45 恋人ができても、子供ができても捨てない本。

働く女性にとって結婚し、子育てをすることは重大な決断に違いないけれど、文化系男子にとってもその決断は容易ならざるものがある。体育会系パパはなんだか頼もしいが、文化系パパというのはこの世に必要とされていない気がする。そのときかれは、文化を捨…

その43 フレッシュネスバーガーで読んだ本。

今日、私の住んでいる町のフレッシュネスバーガーが閉店した。ゆうべ電車から降りて、家に帰って部屋の片付けに巻き込まれる前に読んでしまいたい本があったので、駅のすぐ脇にある店になにげなく入ったら、入口のドアに「明日で閉店します」という趣旨の貼…

その41 余暇の時間を勝ち取るために。

わたし達は時々「あの人にはオーラがある」という言い方をする。その「オーラ」という言葉の本質を明示的に記述した人を知っているだろうか。批評家ヴァルター・ベンヤミンである。かれの言葉を使えば、オーラ(ドイツ語ふうに表記すれば、アウラ)とは「礼…

その38 本を買いに行く足のために。

好きな本を紹介するときに、私がくりかえし思い出す一つの言葉がある。美術家フンデルトヴァッサーの言葉である。 「美術館へ向かう足が跡を残した線は 美術館に展示されている線よりも 大事なもの」 フンデルトヴァッサークンストハウスウィーン NBS-J (ニ…

その36 世界に通用したい願望と向き合う本。

先週のある朝、朝日新聞をめくるとユニクロの柳井会長兼社長のインタビューが載っていた。「オリンピックと同じで、世界市場では少々強いくらいでは勝てない。自分たちの強みをより強くすべきだ」。こう書いてあったことが、しばらく頭に残っていた。 そのあ…

その34 腹痛に体を許してしまった人を好きになる本。

昔から、恋愛相手とは別に、同性にターゲットがいる。その人のしゃべりかたを真似したくなったり、履いているスニーカーの別の色はないかと探してみたり、環境が変わって滅多に会わなくなると、すぐさまその人が昔持っていた財布とそっくり同じものを買って…

その32 自分のブログへの愛想が尽きた時に読む本、4冊。

自分のブログを持つというのは、勝手に株券を発行する行為にどこか似ていると思う。その一握りは上場し、市場にあまねく流通し、いつの日か、アウディA5やポール&ジョーのコスメに変わったりするのかもしれない。でもそれはもちろん天文学的確率での話で、…

その29 完全には治らない病を抱えた人に贈る本。

あと数年で三十歳になろうとする私にはわかっている。そう、人に何かを伝えるようとするとき、思いの強さと伝わりやすさにはあまり関係がないということが。 たとえばいま、一人の男子中学生が同級生に告白しようとしているさまを想像してもらいたい。男子の…

その26 何が本当に面白いのか判らなくなった時に読む本。

季節はずれの連休、家にこもって映画のDVDばかり観ていました。そんなときふと「傑作」って何だろうという疑問が浮んだので、それについてちょっと書いてみます。* * * 傑作があると人から聞いて、どんなもんじゃいと感性をむき出しにして触れてみたはい…

その23 何でもいいから本の話をして。

スタインベックの『ハツカネズミと人間』という小説に、納屋に1人で暮らしているクルックスという黒人の馬屋係が、2人づれで渡りの労働者をしている男たちの1人に話しかける場面がある。 「それからは本を読むしかねえ。本なんて、つまらねえよ。人間には…

その21 スピリチュアルで暑さを乗り切る。

革靴が嫌いだ。夏に履いている人はみんな嫌いなはずなのに、みんな我慢しているからというそれだけの理由で履いている感じが嫌だ。なかにはスーツに似合うプラダかどっかのスニーカーを履いてお茶を濁していたり、靴の流通センターで売っていそうな超地味な…

その18 自分のない人から、自分探しの秘訣を学ぶ。

もう「自分探し」という言葉自体は流行らなくなったけれど、20代後半という年齢の私の回りにはいまだに、同様のテーマに悩んでいる友人がいる。「いまの自分、これでいいのかなあ…」という焦りによって目の前の物事がカスんで見えてくる症状である。 しかし…

その15 事実よりも信用できる小説を。

小説とノンフィクションの違いについて少し時間をとって考えたことのある人なら、その違いは「ルール」にしかないということに、きっと思い至るはずである。「この物語はフィクションです」という断りひとつあるかどうかが決め手なのだ。 突然こんなことを書…

その12 人生の掛け率を下げたいときに読む本。

リリー・フランキーの映画評『日本のみなさんさようなら』に、忘れられない一節がある。 人にはそれぞれ日常のドラマレートがある。人生の中で一度でも千点一万円の大デカピンで打った者は、それ以下のドラマレートではシビれなくなるが、ずっと千点20円のレ…

その9 時間も気力もないときに読む本。

CDは60分あればだいたい1枚聴けるし、映画なら120分くらい座っていれば1本見終わる。いっぽうで本というのは、ときに薄い本でも1冊読み終えるのに半日かかったりする。文庫本なら、レジで支払う金額はCDのアルバム1枚よりずっと少ないけれど、買ってから…

その7 人間やめちゃったあなたに贈る本。

高校生の頃、発狂して虎になった人の話を国語の教科書で読んだ記憶があるが、なんでまたあんな文章を読まされたのかいまだに謎である。朝起きたら昆虫だった人の話も習った。やはり謎だとしか思わなかった。あとになって、それが日欧における文学の古典だっ…

その5 性に振り回されてしまった後に読む本。

他人の話となると冷静でいられるのに、いざ自分が直面すると、どう考えてもばかな行動をとってしまうことは色々とある。何といってもその代表は、性の問題だ。 まず冷静に考えてみる。性には子を作る目的と、さわったり愛をささやき合ったりして感覚的にうれ…

その3 こんなつまんない飲み会、帰ればよかったかなぁ…と思った夜に開く本。

くるりの歌に「僕が旅に出る理由は だいたい百個くらいあって…」(「ハイウェイ」)という詞があるけど、それを言うなら、私が飲み会から帰りたい理由だって、たまに百個くらいある。 ひとつめは歌と同じで「ここじゃどうも、息がつまりそうになった」ふたつ…

その1 日々の仕事がいやになったとき、開く本のこと。

本について語るのは難しい。 「面白かったよ〜」「あ、そうですか」 で終わってしまうと、そんな話はやめておこうかという気になる。たまたま趣味が合えばいいけど、もともと好きな人と、好きを確かめ合うことってときに空しい。 一冊の本を「面白い/面白く…