その24 お見舞いには本を頂戴。

 院をしてしまった。8月の半ば、とても暑い日。1週間ほどで退院し、1週間は自宅療養。退院して1週間はまともに歩けなかったので部屋に篭って本ばかり読んでいた。お見舞いで本を大量に貰ったということもある。お見舞いに来てくれた人は16人。うち13人は本を持ってきた。ベッド、テーブル、棚。シンプルな家具だけで構成された狭い部屋は、あっという間に本で埋め尽くされた。当初はにこやかに「読書がお好きなんですね」なんて声をかけてくれた看護士さんも、1週間たつころには苦笑いを浮かべるようになった。「あなたのことをよく分かってるのねみんな。お見舞いと言えば花だろうに、本を持ってくるなんて」とは母の弁。


 今回の入院は虫垂炎のため(早い話が盲腸である)。入院から退院までの経緯について簡単に説明すると

お腹が痛い
  ↓
病院へ行く
  ↓
お腹をあける
  ↓
悪いところを切る
  ↓
お腹を縫う
  ↓
 おわり

という流れ。盲腸というと、その症状である腹痛がおそろしい痛みだと世間では言われているらしいけれど、わたしは腹痛よりも術後の痛みのほうが辛かった。さきほど説明した経緯で言うところの「お腹を縫う」と「終わり」のあいだ。この期間は腹筋を使うと激痛が走るため行動が制約される。起き上がるのも無理、寝返り打つのも無理、くしゃみをするのも無理、笑うなんてのは自殺行為に近い! つまり読む本を選ばなければいけないということ。

 しかし残念ながらこの事実を知っていた人は見舞い客の中には少なかったらしい。お見舞いに、とやってきた本は『聖おにいさん』『ピューと吹く!ジャガー』『地獄甲子園』『泣くようぐいす』『喧嘩商売』など表紙を見ただけで傷跡が疼くラインナップ。*1

*2

というわけで、前置きが長くなりましたが“友達が入院した!お見舞いに本を持って行きたいけれど何がいいのかわからない”と悩めるあなたに向けて今回は書きたいと思います。先に言っちゃう、お見舞い本の鉄板はコレ。

Land Land Land―旅するA to Z (ちくま文庫)

Land Land Land―旅するA to Z (ちくま文庫)

▲永遠のオリーブ少女こと岡尾さんが自分の行きたいところに行き撮りたいものを撮った乙女旅行記
コーネリアスの惑星見学

コーネリアスの惑星見学

▲永遠の渋谷系アイドルこと小山田君が自分の知りたいことを知り見たいものを見るためだけにあちらこちらを探訪したレポート


 入院生活に不足しがちなのは好奇心と乙女心。栄養ならサプリメントで補給できるけれど、好奇心と乙女心の補給はなかなかムズカシイわけです。


 寝たきりの入院生活で目に入るもの。灰色のパイプベッド。ベージュのカーテン。白いシーツ。終わり。視界に入るくすんだ色の世界に、心も沈みがちになる。かわいいものなんてどこにもない生活。病は気からとはよく言ったもので乙女心が萎えると元気もなくなってゆく。お化粧なんてできないからすっぴんで顔色の悪さを曝け出し、洋服はピンク色の入院着。シンプルイズベストを絵に描いたような(当たり前だ)入院着は、心躍る要素が1つもないデザイン。女子にはかわいいものが必要だ! というわけで『Land Land Land』。

 この本がスゴイのは「かわいい」で全てが表現できるところ。スゴイところを列挙してみる。かわいいものしか掲載されていないところがスゴイ。解説がかわいいところがスゴイ(かわいいマニア代表・穂村さん)。本自体がかわいいところがスゴイ(見返しが花柄の壁紙!)。なにが1番スゴイって「ちくま文庫」から刊行されていること。あなたが文庫マニアだったら分かってくれると思う、わたしの興奮を。「ちくま?」という人は手元に文庫本を並べてみてほしい。あなたの本棚には、どこの出版社の文庫があるだろう。なるべくたくさんの出版社の文庫を並べてほしい。並べましたか? あ、ちくま文庫が手元にない場合はなんとかして入手してくださいね。それでは見てみましょう。背、表紙、裏表紙。どうです? ちくま文庫が一番かわいいでしょう! アンティーク本のようなゴールドベージュの色味。手描きのタッチがきゅんとする太陽のマーク(ちなみにマークは太陽と月の2種類があって、内容によって違います。豆知識!)。これをかわいいと言わずして何をかわいいと言うのでしょう。(かわいい文庫頂上決戦をするなら中央公論新社から刊行されている英米文学も上位に食い込みます。

熊を放つ〈上〉 (中公文庫)

熊を放つ〈上〉 (中公文庫)

か……かわいいっ!
何回「kawaii」とタイプしたか分からなくなってきました。スミマセン。話をもとに戻すと、スゴイところが全て「かわいい」の一言に要約される本なのです。旅の準備の注意点(「酔っ払ってパッキングはしないこと」)から、おみやげリスト(もちろん写真つき。次に藪さんが旅行に出るときは、これを渡そうと思いました。他力本願)までを完全網羅。行き先は北欧、ロシア、イギリスなど。国名を見るだけで自称オリーブ少女がらぶずっきゅん(BY相対性理論)なラインナップですよ! No kawaii No life!(※もちろんlifeは生活と命のダブルミーニングでお願いします)かわいいものって心をほっこりさせるよね!
【参考資料】らぶずっきゅん

 おかしなテンションになってきたので次の本に参りましょう。『コーネリアスの惑星見学』。これアマゾンで検索すると中古品しかヒットしないので悩んだのですが、いい本はいい! というわけで紹介しちゃいます。ベッドに寝転んで『Land Land Land』を読むと旅欲というものが生まれます。「退院したらしたいことリスト」に加わる「旅」という新規項目。しばらく(半日くらい)は脳内旅準備で楽しめるのですが、だんだん湧きあがる「ここを出たい、どこか行きたい!」という欲望すなわち好奇心。それを抑えるために読むのがこの本。『Quick Japan』『Rockin on Japan』(※90年代のもの限定)『鳩よ!』『relax』あたりの雑誌が好きだった人になら胸を張ってオススメできる「Theサブカル」な内容。サブカル界の王子(勝手に命名)が行きたいところに行くんだもの、そりゃーメジャーどころ(大リーグとか? わからん)には行かんわな。プリンセス天功にマジックをかけられる、催眠術を体験する、なんてのは序の口で、世界の時報を聞いてみよう! だとか25万円のマイクの開発者に会ってその使い方をレクチャーしてもらおう! と王子の趣味丸出しの企画が20本も入っている豪華さ! 装丁も真っ赤な表紙にビニールカバーというPizzicato fiveのCDのようなオシャレ豪華さ。王子がレコーディングで忙しかった回は、王子の仕事をさくらももこさんが見学&それをマンガでレポート。豪華! 作曲秘話が読めるのも豪華! と前者が「スゴイ! かわいい!」なら、こちらは「おもろい! 豪華!」と連呼したくなる内容。ネタの斬り口の面白さもさることながら“記録係”なるライターさんの腕が素晴らしい。と思って名前をチェックしたら川勝正幸さんでした。ナットク!


 ある場所を取り上げて、そこへ行きました、何を見てきました、というレポートをした本はいくつも出ているけれど当たり外れが大きくて、じゃあその「当たり」の要素って何なの? というと

  1. ネタ自体の面白さ
  2. ネタの斬り口の面白さ
  3. 文章の語り口がネタの雰囲気にあっているか

の3つでしょう! その点、この本は3つの要素が全て備わっている最強本。語り口はいうなれば学級新聞。わいわいきゃーきゃーという作っている側の楽しさが伝わってきて、元気になれます。好奇心も満たされ元気になれる、なんて素敵な1冊! もし入院してしまったお友達が男子なら、この本と一緒にこちらを持っていくのもオススメ。*3

行きそで行かないとこへ行こう (新潮文庫)

行きそで行かないとこへ行こう (新潮文庫)

行き先に浅草ロック座やらポルノ映画館が入っているのが男子の浪漫!(たぶん!)


 以上でお見舞いに行くときの本ガイド〜盲腸編〜は終了です。また入院をして、これがシリーズ化しないように健康には気をつけたいと思います。(歩)

*1:というよりも女子に差し入れるラインナップではない。他にも『ゴルゴ13』『闇金ウシジマくん』などが差し入れられ、自分のキャラ設定について悶々とした。まあネタになるからいいけどね!

*2:大丈夫だろうと思って『グ、ア、ム』を読んだら死ぬかと思いました。本谷有希子作品も要注意です。

*3:これもアマゾンで品切中。自分が「いい!」って思う本が品切ばかりなのって出版社の営業としてどうなんだろう。。。