その136 日本を愛したい人にすすめる本。

 の頃、自分のなかで日本愛がちょろちょろと岩清水のように湧出しはじめた。それはまるで親の意思で無理矢理結婚させられた相手と暮らしているうちにこの人いいところあるかもと思い始めた全近代的夫婦の心境みたいなものかもれしない。しかし声を大に、というか本当はフォントサイズを大にしてタイプしたいのだが、日本で生まれたから日本が好き、とか福岡で生まれたから福岡が好き、とか思う人の大概は手近なところで自分の好きを処理しただけのおめでたい人ではないだろうか。俺は日本のここが好きなんです、私は福岡のこんなところにグッとくるんですと遣唐使に説明できるだろうか。別に説明できる必要はないかも知れないが、説明できると毎日をより安寧な心境で暮らせると思う。

新編 東洋的な見方 (岩波文庫)

新編 東洋的な見方 (岩波文庫)

 いつも通り前置きが長くなってしまったが、ついに先日私は自分の日本愛の落とし所を見つけた。それは「妙味」である。引っ越しの片付けをしているとき、棚にあった鈴木大拙の『東洋的な見方』を開いてなにげなく読んでいたら、最近自分がはまっているものには共通して「妙」という魅力があることに気づいた。鈴木老師はこんな風に書いている。

いうにいわれぬ、なんだか曖昧模糊のうちに何か感ずるものがある、それを妙といいたい。

 この一文を読んだとき、頭にギュリーンと電球の光る音が聞こえた。「ロマンシング・サガ」で必殺技を思いついた時に出てくるあの音である。このごろ自分が好きなもの。モヤモヤさまぁ〜ず山口晃の絵etc.の魅力はこれだったのかという気がした。不完全なもの、時代とズレたものが生み出す美、一見ぱっとしない対象のなかにある面白味を見る姿勢を表現することばとして自分のなかにとどめ置きたいと思った。

山口晃 大画面作品集

山口晃 大画面作品集

 さっきの一文だけで「妙」を説明することはできないし、かといって『東洋的な見方』のエッセイをここで全文引用するのも難儀なので、鈴木老師がどんなことばに「妙」を見たかについて、引用してみる。それはシェイクスピアの「お気に召すまま」という戯曲の一文である。

A wonderful,
wonderful,
and most wonderful, wonderful!
and yet again wonderful!

 この言葉、音読してみるとなんとも言えずばかばかしくて良い。ちなみに最近私が「妙味」を強く感じたのは、仕事がえり、横浜のそごうで開催されていた山口晃の展覧会に行って見た「メカごこち スターウォーズをおもう」という水彩画である。「帝国紙しばい」という文字の横でダースベイダーが集まった子供のダースベイダー達にメカニックな紙芝居を見せているという絵で、その子供のダースベイダー達がなんともいえず可愛かった。手元の図録にはなかった絵なので、会期に間に合う方はぜひ見に行ってみてください。(波)

山口晃展〜付り澱エンナーレ 老若男女ご覧あれ〜>
 4月20日(土)〜5月19日(日)
そごう美術館(そごう横浜店6階)
10:00〜20:00(入館は閉館の30分前まで)
会期中無休
大人1000円 
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/13/0420_yamaguchi/
新潟市美術館に巡回(7月13日〜9月30日)