その133 フランスのちびまる子ちゃん。
高校生のころの愛読書はさくらももこの『ちびまる子ちゃん』だった。妹の本棚から抜き出して読むのがとても好きだった。社会人になって出張先の静岡を訪ねたとき、清水の商店街で、まる子の好物「甘なっとう」を買った。それを手に提げて、大部分のシャッターが閉まった清水の商店街を歩きながら、なんともいえない物哀しさを覚えた。それは、ちびまる子ちゃんの住む町はあの漫画のなかにしかないという当たり前の事実を実感した瞬間だった。
- 作者: さくらももこ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1987/07/15
- メディア: コミック
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おなじような気持ちで、今愛読している漫画がある。かわかみじゅんこの『日曜日はマルシェでボンボン』という作品だ。かわかみさんは旅先で出会ったフランス人男性と結婚し、フランスに住み『パリパリ伝説』というパリ暮らしを描いたエッセイ漫画も書いている。
- 作者: かわかみじゅんこ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/05/25
- メディア: コミック
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この漫画、著者の人々を観察する視線が、とても繊細かつユーモラスなところがちびまる子ちゃんに似ている。それはきっとどこにもないフランスの町なのだろうと思う。フランスのいいところ。人間の欲望に甘い国、フランス。リスクをしょって愛に生きる国、フランス。現実にあるディテールがなければきっと生まれなかった世界なのに、一度漫画としてひとつ世界が完成すると、それと同じものはこの世のどこにもないという不思議。誰かの頭の中で再構成された異国の町というのはとても魅力的だ。
私が好きな場面が一巻にある。クリスマスの季節、サンタクロースは本当はいないということをジュリエッタに知らせまいと気を遣う大人たちが、ふとしたはずみからプレゼントを買いに行ったことをジュリエッタの前でばらしてしまう。それに傷ついたジュリエッタは家を飛び出す。追いかけてきたいとこに「大人ってダメだね」と慰められたとき、彼女はこう言うのだ。「そうじゃないよ 信じなきゃ なくなっちゃうよ 何でも そうだよ」と。そして夜空を見つめるジュリエッタがほんとうにかわいい。この漫画の魅力が凝縮されているページだと思った。目の前にあるものがつまらないと感じがちな人に、キラキラした視線を守ろうとする努力の大切さを教えてくれる作品です。(波)