その138 馬鹿フェチに捧ぐ一冊。
たいした問題じゃないが―イギリス・コラム傑作選 (岩波文庫)
- 作者: 行方昭夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/04/16
- メディア: 文庫
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なぜ、行方さんの名前から「なめ」を連想してしまうかというと、会社の先輩が酔った勢いで隣にいた同性の耳をなめてしまい、それからのその人は一部の筋から通称なめちゃんと言われていたという話を先日居酒屋で耳にしたからである。フルネームにひとつもかすりもしないニックネームなのでまさかと思って尋ねてみたら、やはりその先輩はなめちゃった男だった。
サマセット・モームの翻訳者として行方さんの名前はよく知っていた。だからこの人の訳文なら間違いないだろうと思って読んだ。この「イギリス・コラム傑作集」には20世紀前半に、エッセイストとして名を馳せた4人のイギリス人の文章が収録されているのだが、『くまのプーさん』の原作者ミルンが書いたエッセイが、説教臭さがなくてすばらしいと思った。エッセイにもかかわらずほとんど作者の妄想が書いてあり、しかも最後まで飽きさせない技術と勢いがある。気に入ったところを抜粋すると、こんな感じ。
今日人々が日記をつけない理由は、誰にも事件らしいものが一つも起きないからではなかろうか。もし次のように書ければ、日記をつける価値が生まれるであろう。
月曜日「今日も胸躍る日だった。通勤途中でフーリガンを二人射殺し、警察に名刺を渡すことになった。役所に着くと、建物が延焼中で驚いたが、英国スイス間の秘密協定の案文を運び出す余裕はあった。これが万一世間に知れたら、戦争が勃発する可能性高し。昼食に出ると、ストランド街で逃げ出した象を目撃。その時は気にもとめなかったが、夜になって妻に話したところ、妻は日記に記す価値ありと言う」
この本の解説によると、イギリスのエッセイストといえば、第一人者はチャールズ・ラムという人なのだそうだ。彼の代表作『エリア随筆』には以下のような記述がある。
真面目に読者よ、私は一つの真実を君に告白する事にする。私は馬鹿が好きだ——私が生まれつき馬鹿の近親であったかのように。(「萬愚節」戸川秋骨・訳)
私も同感だ。モンティ・パイソンがイギリスから生まれたのは、この辺りの感覚と関係があるのではないかと思う。(波)